時空の管理人
いつもと同じ、慣れ親しんだ場所なのに、人気もなく、
何の物音もしない全くの別世界に迷い込んだような不思議な体験。
もし、あなたがこんな体験をしたことがあるのなら、
それは『時空の挟間』に迷い込んでしまったのかもしれません。
これは、日常の疲労やストレスなどが原因の幻覚のように思われるかもしれません。
しかし、このような体験談は少し集めただけで数十件もみつかりました。
そして、体験者たちは皆、一様に夢や幻ではなかったという現実感をもっており、
必ずといっていいほど『ある共通の事象』を体験しているのです。
ここで代表的な体験談の一つを紹介しましょう。
その日、私が起きたのは朝の10時頃でした。
僕が通う大学は朝の9時半から始まるのですが、いつも少し遅刻して行くので
そんなに焦ることはありませんでした。
ちなみに僕の家から大学までは徒歩で3分の距離。
その日は前日の夕飯の残り物を食べてゆっくりと支度を済ませ、
結局大学に着いたのは10時20分過ぎでした。
学校への坂を登り、キャンパスの中に入ると人は全くいませんでした。
「今日は大学休みだったっけ…」
とりあえず、一限目の授業のある教室に向かいました。
しかし、教室に入っても誰もいませんでした。
「休講?教室変わったのかなぁ…」
そう思い、掲示板に確認に行くと、別段変わった事もなく、
授業も通常通りのようでした。おかしいなと思い、
教務課へ確認に行こうと思った瞬間、携帯がなりました。
「誰だろう…」
そう思い着信表示を見てみると、そこには…
『NOBODY』
と英字でかかれていました。こんな英字は今まで表示されたこともなかったし、
もちろんメモリーにも入っていなかったのですが、電話に出ました。
「もしも…」
そう言った瞬間
「お前、何でここにいるんだ!?」
中年の男性の声でした。
「えっ、あなた誰です?」
「どうやってここに入ってきた!?」
「はい?あなた何を言ってるんですか?」
「こっちを見て見ろ!」
「いたずら電話は止めてください!」
そういって、電話を切りました。
しかし、その時ふと人の気配がして辺りを見回すと、
大学のグランドの真ん中に誰かが立っているのが見えました。
そして、よく見るとその人は中年の男性で、携帯電話らしきものを
耳に当てているのが見えました。
呆然とその人物を眺めていると、彼は僕の方にゆっくり顔を向け、
そしてポケットに手を入れました。僕は何か得体の知れない危険を感じて、
その場から走り去ろうとしました。
その瞬間、身体が伸びるような、今まで感じたことのない感覚に襲われました。
「えっ!なっ…なんだ!」
そう思っている時、目が覚めました。僕は自分の部屋で寝ていたのです。
時刻は朝8時ちょうどでした。
「不思議な夢を見たな…」
そんな風に思いながら朝の準備をしていると、ある異変に気がつきました。
冷蔵庫を開けると、前日の夕飯の残り物がなかったのです。
そして、台所には食べ終えた食器だけが置いてありました。
寝ぼけて食べてしまったのでしょうか。
でも、夢にしてはかなり現実感がありすぎる、そう思って僕は携帯を確認しました。
すると、携帯の電源が入らないのです。
結局、携帯は故障の原因も分からないまま、新しいものに変えましたが、
中に入っていたメモリーは全てなくなってしまっていて、
あの謎の着信についてはわからずじまいでした。
しかし、やはり夢ではなかったことを確信しました。
あの中年男性の容姿だけは思い出そうとしても無理なのですが、
男性の低い声と身体が伸びるような不思議な感覚。
この2つだけは今でもありありと思い出せるのです。
どうですか?……
どうですか?
まるで『時空の挟間』に迷い込んだような話ではありませんか?
改めていいますが、このような体験談は少し集めただけでも数十件あります。
おそらく同じような体験をしたことがある人は世間にはもっといるでしょう。
場所は学校の他に、会社や路上、街中、駅のホームなど様々ですが、
以下の点は少しの例外を除き共通しています。
・ 現れるのは中年の男性である
・ 中年男性がいるのは校庭やグランド、公園など広い場所である
・ 携帯の着信は『NOBODY』からである
・ 中年男性がポケットの中で何か操作すると現実世界に戻される
・ 意識が戻ったあと、現実世界の携帯に異変がある
・ 中年男性の容姿は漠然としか思い出せない
この中年男性は『時空のおっさん』と呼ばれ、その世界にやってきた
迷い人を現実の世界に戻すのが仕事のようです。
電話の声は時には優しかったり、反対にとても恐い声の場合もあるようで、
時空のおっさんは何人かいるといわれています。
中には電話の声が死んだ父親の声だったという体験談もありました。
この話は、古くはこの世の終わりを見たというヨハネ黙示録、
新しい話ではUFOに誘拐された体験談にも似ています。
ひょっとしたら、時空のおっさんもそれらに共通する何者かに
関わっているのかもしれません。
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